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読書メモと勉強したことのまとめ。

ヴィーガンはパーム油も避けるべきか?

 

0 はじめに

本記事はパーム油の問題について取り上げ、それについて検討する記事である。パーム油は多くの環境問題を引き起こしており、非常に問題となっている。しかし、一定数のヴィーガンは(私も含め)「パーム油は仕方ないよね」と考えていることだろう。だが、いざ真剣に考えてみると「仕方ないよね」では済まされない部分がある。本記事では「仕方ないよね」と考えるヴィーガン(や非ヴィーガン)に向けて、仕方なくないよ、ということを説明する。

 1節でパーム油の問題とパーム油のメリットについて説明する。2節で「持続可能なパーム油」の生産について説明する。そして3節で、以上の情報をもとに、パーム油を避けるべきか、避けるならどの程度避けるべきかを検討する。4節でパーム油ではない、他の植物油の使用について検討する。5節でまとめる。

 

1 パーム油について

 パーム油の工場的な生産は非常に問題であることが知られている。ネット上で調べればいくつも記事を見つけることができるだろう。

www.wwf.or.jp

この記事のポイント

パーム油の生産は、熱帯林減少の最大の要因の一つとされています。ポテトチップスやパンなどの加工食品、洗剤、せっけん、化粧品…使われている製品を挙げればきりがないほど、パーム油は日本の私たちの生活とは切っても切り離せない身近な植物油です。国内使用量を100%輸入でまかなう日本は、パーム油の生産がもたらすさまざまな問題に対し、大きな責任を担うアジアの消費国として、今、早急な対応が求められています。 

パーム油は、その汎用性の高さ、また生産可能時間の長さ(約20年)という大きな利点からよく使われている。しかし、問題点がいくつかある。

 上の記事では問題点が7つ挙げられている。基本的にどれも、パーム油の生産に当たってその増え続ける需要に対応して生産地確保のために発生する問題である。

  1. 熱帯林への影響
  2. 泥炭地への影響
  3. 森林・泥炭火災への影響
  4. 野生動物への影響
  5. 人への影響(先住民族への影響、児童労働、低賃金労働など)
  6. 生産者が抱える問題(小規模生産者は利益を上げることができない)
  7. パーム油を使わないことで生じる問題(後述)

さて、これらの問題はパーム油問題について聞いたことがあるなら知っての通りだろう。それゆえパーム油を避けるべきであるとよく主張される。また、主に4の問題によって、ヴィーガンもまたパーム油を積極的に避けるべきだと主張される。

 だが、ヴィーガンの中には「パーム油は仕方ない」と思っている人もいる、私もついこの頃までそう思っていた。その最も大きな理由は7の問題である。

 パーム油は単位面積当たりの生産量が最も大きいことで知られている。図1は単位面積あたりの各植物油の生産量を表している。

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図1 パーム油と他の油の単位面積当たりの生産量比較(引用:上記記事)

したがって、単にパーム油を避けて別の植物油を選択することは、むしろ事態を悪化させる可能性がある。というのも、他の植物油に移行したところで、むしろそれらでは生産量がまるで足りず、もっと多くの面積を必要とすることになってしまい、したがって問題は悪化するからである。図2は各植物油を1トンを生産するのに必要な面積を表している。(図1と計算が微妙に合わない、データが異なると思われる)

 

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図2 パーム油と他の油の1トン当たりの必要面積比較(引用:上記記事)

それゆえ私は「パーム油はまぁ仕方ないよね、だって他の植物油の方がもっと悪いから」と考え、今までは特に気にしていなかった。おそらく他のほとんどの人もそうだろう。

 

2 パーム油の生産方法をどうすべきか?

上記の記事でもうたわれているように、植物油の使用を完全にやめるのは不可能なので、パーム油の使用をやめるのではなく、パーム油の適切な使用を心がけるべきだろう、とよく言われる。

もともと、パーム油の原料であるアブラヤシはただの農作物です。農作物自体に問題があるわけではありません。つまり、パーム油を使うか使わないかではなく、「どのようにパーム油を生産するのか」という視点が、問題の本質であると、WWFは考えています。

これはもっともなことだが、では、どのようにパーム油を生産するのが適切なのだろうか。

これを実現するための手段の一つとして、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)という国際組織が設立されました。

RSPOは「持続可能なパーム油のための円卓会議」の略です。

少なくとも上記の記事を読む範囲では「持続可能なパーム油」がどのようなものなのか一切書いてないので、RSPOについて別の記事を見てみよう。

www.wwf.or.jp

ビジョン
RSPOは持続可能なパーム油が標準となるよう市場を変革する

使命

  • 持続可能なパーム油製品の生産・購買・融資・利用を促進する
  • 持続可能なパームのサプライチェーン全体にわたり信頼される国際的標準の策定、実施、検証、保証、および定期的見直しを行う
  • 市場での持続可能なパーム油の取引による経済・環境・社会への影響を見守り、評価する
  • 政府、消費者を含むサプライチェーンを通じた全てのステークホルダーと積極的に関与する

これだけではよくわからないので、「RSPOの原則と基準(The RSPO Principles and Criteria、P&C)」を見てみる(英語)。

www.rspo.org

主に生産面に関して、気になるところをまとめると

  • 基本的に、経営計画、管理法、労働安全基準、人権が適切に尊重されているか、など、それらの文書化と報告の義務
  • 新たな生産地拡大を勝手にやることの禁止、また他者の土地の権利を侵害しながら拡大するのも禁止
  • 農薬の使用の制限(環境負荷や人への影響を鑑みて、使用を最小限に抑える)
  • 土壌肥沃度soil fertilityを最適に保つための、標準作業手順SOPsに従った管理など、その土地の維持可能性の適切な管理
  • 温室効果ガスの排出量の管理とその削減、最小化の実施計画の作成と実施
  • 特定管理区域内の森林の保護または強化

など、適切な管理、生産が行われているかをチェックするようである*1。もし実際にそのような管理がなされ、適切な環境、人権保護の下で生産されているなら、そうした承認を受けたパーム油と受けてないパーム油とで、前者を選択すべきなのは自明である。

 

3 「できる限り」の意味する範囲

さて、話を元に戻すと「パーム油は仕方ないよね」という主張は正当化されるだろうか。おそらく正当化できない。ただし、これは程度問題として扱うべきだろう。

 ヴィーガンはよく「できる限り動物性製品を避ける生活スタイル」と言われるのだが、この「できる限り」は非常に厄介である。パーム油やその他の油を避けることは「できる限り」に入るだろうか、それとも入らないだろうか。

 パーム油の使われているところを整理しよう(以下のリスト以外にも様々あるが、ここでは以下のリストのそれぞれのみを検討して、「できる限り」を探っていく)。

  1. 偶然ヴィーガンOKになっている加工食品
  2. ヴィーガン向けの加工食品
  3. 食品以外、例えば洗剤など

1 偶然ヴィーガンOKになっている加工食品

加工食品、と一口に言っても、普段の食事のメイン(主食)から菓子類まで様々あるだろう。ここでは両極端の、主食と菓子類について検討する。

 まず、自炊が可能であるなら、主食にパーム油使用の加工食品を避けて自炊をすべきなのは言うまでもない。問題となるのは時間と労力だが、それらが多少の努力でなんとかなるなら、金銭的にも環境的にも優しい自炊を選択すべきである。これは「できる限り」の内だろう(もちろん、「多少の努力」でどうにもならないなら「できる限り」の外である)。

 一方で菓子類を避けることは完全に「できる限り」の内だと考えていいだろう。主食の加工食品の場合、ヴィーガンOKで植物油脂(パーム油)が使われていないものはめったにないが、菓子類は植物油脂(パーム油)が含まれていないものが比較的多い。それゆえ、菓子類全般をやめなくても、植物油脂(パーム油)不使用の菓子類に変えれば済む話である。わざわざ植物油脂(パーム油)が含まれているものを購入するのは不正であり、避けるべきである。

2 ヴィーガン向けの加工食品

ヴィーガン」の認証がついているものなどは、その商品のターゲットとしてヴィーガンを狙っているものである。この場合、それらの購買によってヴィーガン商品の需要があることを市場に示すことができる。これは多くのヴィーガンにとって重要なことである。

 だが、ヴィーガン向けの加工食品の多くには植物油脂、(非認証の)パーム油が含まれているのもまた事実であり、ここに衝突がある。ヴィーガン向けの商品として売り出されているものに植物油脂が入っていて、その需要が大きくなった場合、それは「ヴィーガン商品に植物油脂(パーム油)を使うことはOK」だということを暗黙の裡に示すことになる。だがしかし、それらのヴィーガン商品の購入を避けることは「ヴィーガン商品の需要はない」ということを示すことになり、市場からヴィーガン向け商品がなくなる。

 我々はどうすべきだろうか。申し訳ないが、私はまだ答えを出せずにいる。功利主義者として、その購買がどのように最大幸福につながるかを知りたいのだが、関連する知識を持ち合わせていないので、判断できずにいる。これについて何か助言がある方はぜひお願いしたい。

 とはいえ、できることはある。「植物油脂」が含まれている場合、それがパーム油かどうかを企業に確認する。そしてパーム油ならば、それが認証を受けているかどうかを確認する。もし受けているならOKである。しかし受けてないなら、今度は企業へ「ヴィーガンは環境問題も気にしていて、だからパーム油も認証を受けているものを購入しようとします/認証を受けてください」という要望を送るのである。こうすることで、市場を介さずに、企業へメッセージを伝えることができる。これによって「ヴィーガン向け、かつ、環境保護してる」という素晴らしい商品につながる可能性を大きくできるはずである。

 

3 食品以外

食品以外に含まれているパーム油を避けることは非常に難しいだろう。少なくともその辺のスーパーなどで売っているようなものにはパーム油はほぼ確実に使われている。したがって、特定の業者から入手する必要があるが、これは困難な場合があるし、何より値段が少々高い場合がほとんどだろう。

 そこでいくつか代替がある。例えば食器洗剤には重曹を使ったり、洗濯に過炭酸ナトリウムなどを使ったりすることによって環境負荷を下げられる(フォロワーさんに教えてもらいました、ありがとうございます)。

 もしこうした代替が(金銭面やその他に照らしながら)可能なら、そうしていくべきだろうし、それは、わざわざ特定の業者から購入するのと比べてよほど「できる限り」の範囲だろう。しかし代替が難しいなら、それは「できる限り」の外だと考えてもいいかもしれない。これは各自の生活環境にかなり依存するだろう。

 

 以上の検討から、パーム油の使用に関する「できる限り」の範囲が見えてきただろう。まず少なくとも、偶然ヴィーガンOKになっている加工食品、特に菓子類は避けるべきである。これだけでかなり異なるのは、実際に今手元にある食品類や、これから買い物をする際に注意するとわかるだろう。

 しかしヴィーガン向けをうたっているパーム油使用の商品と食品以外のパーム油使用の商品を避けるべきか否かは、私は判断を保留する。前者はヴィーガンの需要を示すという点でその購入が重要であり、後者はそもそも代替が難しい場合が多いからである。

 

4 他の植物油の使用

すでに述べたように、パーム油は単位面積当たりの生産量が最も多い。それゆえ、他の油に変えたところで、問題は悪化するかもしれない。したがって基本的には、そもそも油の使用を控えるべきである。

 しかし自炊にしても植物油を使用するところはあるし、完全に避けるのは不可能に近い。そして全ての人がパーム油から他の植物油に移行しようものなら、代替油のための生産地面積の確保が大変なことになる。

 さて、ここに分岐点がある。避けるのが困難であるような場面で、パーム油を選択すべきか、他の植物油を選択すべきか、どちらだろうか。

 まず、認証を受けているパーム油ならそれを選択すべきである。問題は、認証を受けていないパーム油と、他の(環境保全的な認証を受けていない)植物油との選択である。

 カントの普遍化可能テスト*2を使えば、すべての人が他の植物油を使うことは生産面積の大きな拡大につながるので承認できないとなる。一方で、すべての人がパーム油を選択するのは受け入れられる(もちろん、避けられないところでの選択の話であって、避けられるところでは避けるべきである)。したがって、カントの普遍化可能テストによれば、パーム油を選択すべきである。

 だが私は、これは間違っていると考える*3。実際のこの世界では、私たちが他の植物油を使用したところで、他のほとんどの人はパーム油を使用し続ける。したがって、私たちが他の植物油に多少移行したところで、実際に生産面積が大きく増えるわけではない。少し気を付けて*4他の植物油を選択すれば、それは実際にはパーム油の使用を減らすことにつながる。その際の他の植物油の需要の増加はそれなりに環境に影響があるだろうが、パーム油ほどの問題となっている地域での生産でない限り、パーム油の生産面積拡大よりも問題が少ないはずである。要するに、パーム油に集中しすぎていることは一つの問題であり、それを分散させることにある程度の意味がある、ということである。

 それゆえ、仮に効率が悪く、生産面積が増えるとしても、現時点で実際に問題のより少ない生産面積拡大を選択すべきであり、その点で、(問題の大きい)パーム油を避けて(問題の少ない)他の植物油を選択すべきである(もちろん、油を避けられるときに避けるのは大前提である)。

 だが今後、環境問題や動物問題を考える人が増え、他の植物油に移行しようとする人が増えてきて、それによって、元々問題が少なかったはずの他の植物油の生産面積拡大が、パーム油の問題より大きな問題となる場合には、その時には、パーム油の方に移行すべきである。つまり、どの選択においても「問題の少ない方」を選択すべきである。そして現状は(私が考えるに)他の植物油の選択の方が問題が少ないため、そうすべきである。だがこれは将来的に変わる可能性は大いにある。

 

5 まとめ

1節でパーム油の問題を取り上げ、またパーム油の単位面積当たりの生産量が最も多いことを示した。2節では持続可能なパーム油生産について取り上げた。3節で「できる限り」パーム油を避けるとしたらどのようなものを避けるべきかを考察し、偶然ヴィーガンOKになっているような食品類は基本的に避けるべきであることを示した。4節で他の植物油への移行を検討し、避けられないところでは、現状では他の植物油を選択すべきであることを示した。

 私も含め、多くの人が「パーム油は仕方ないよね」と思っているかもしれない。だが本記事で検討したように、それは怠惰である。ヴィーガンに限らないのはもちろんだが、特に(エシカル)ヴィーガンは「仕方ないよね」で済ますのではなく、避けられるところでは積極的に避けるべきである。それは、(パーム油の影響を考えれば)動物性を避ける義務と同様の義務であり、本記事で検討したようなことを理解しているにもかかわらずそうしないのは、端的に怠惰であり、(エシカル)ヴィーガンを名乗るには少々偽善的にすぎるだろう。

 なんにせよ、最善なのは、そもそも油の使用を控えることであり、それが難しい場合にのみ、承認を受けているパーム油や他の植物油を選択することである。私もようやく最近ここに至ったばかりなので他人に大きな声で言えたようなものではないが、(これまでも)これから(も)みんなで避けていこう。

*1:実際にそれが行われているかは定かではない。グリーンウォッシュの問題を考えれば慎重になった方が良いだろう。

*2:Xしてもいいのは、「全ての人がXをする」世界を受け入れられるとき、そのときのみである。

*3:そもそも普遍化可能テストを受け入れていないのだが、それをおいておく。

*4:まだ調査不足だが、他の植物油であれば何でもいいわけではないだろう。例えばキャノーラ油(菜種油)は低賃金労働の問題があるようである。一般にはオリーブオイルがよいとされているが、その辺りも含め今後調べていきたい。