ボール置き埸

読書メモと勉強したことのまとめ。

青木人志(2010)「アニマル・ライツ」の読書メモ

 本記事は

  • 青木人志, 「アニマル・ライツー人間中心主義の克服?」, 愛敬浩二ら編(2010), 『人権の主体』, pp.238-256, 法律文化社
人権の主体 (講座 人権論の再定位)

人権の主体 (講座 人権論の再定位)

 

の読書メモです。動物の道徳的権利ばかり考えていたので、法的権利という観点で考えるのは私にとっては勉強してない分野だったので面白いなと思い、また他の人も参考になると思うのでメモを残しておきます。

 Ⅰではアニマルライツとは何なのか、そしてアニマルウェルフェアとの違いは何なのかが整理されています。Ⅱからが本旨なので、そこからのメモです。

 

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ヴィーガニズムと動物倫理

  • 0 はじめに
  • 1 ヴィーガニズムの根拠
  • 2 反種差別の帰結
  • 3 よくある批判
    • 3.1 植物の命はいいのか?
    • 3.2 今まで動物実験をさんざんしてきて発展してきたのだから、そのような犠牲の上に成り立っている社会から出ていくべきである
    • 3.3 ヴィーガンは私たちに菜食を押し付けるべきではない
    • 3.4 他者に迷惑をかけていないのだから何を食べようと自由である
    • 3.5 ヒトラーベジタリアン(ヴィーガン)だった。だから、ヴィーガンはおかしな集団である
    • 3.6 どれだけ頑張っても動物の犠牲を0にはできないのだから、ヴィーガニズムを普及させたところで意味がない
    • 3.7 野生動物の世界では肉食動物は草食動物を食べている。それゆえ私たちも動物を食べても問題ない 
  • 4 まとめと参考文献とヴィーガン料理

 

0 はじめに

 *1

本記事の目的は、倫理的な理由に基づくヴィーガニズムへの誤解や批判に対して答えることである。

 まず1節でヴィーガニズム、より正確には動物倫理における反種差別の議論をみていく。2節で、1節で検討したことからの帰結としてのヴィーガニズムを検討する。3節でヴィーガニズムに対するよくある批判を検討する。4節でまとめる。

*1:(2022/12/14追記)以前は以下のような文章から初めたが、もはや必要ないと思われるので省略した。

ここ最近ツイッターやネット記事で「動物はご飯じゃない」デモとそれへのカウンターである「動物はおかずだ」デモに関して様々な意見・主張が見受けられる。少なくともいくつかは的を射た批判もあるが、その他の多くの批判は、互いに対する無理解が中心的であるように思う。私はデモとカウンターデモに関してよく理解できていないので、これら一般に関して意見することは控える。

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シェリー・ケーガンの種差別批判批判とシンガーのリプライ論文の要約

  • What’s Wrong with Speciesism?(種差別の何が悪いのか) by S. Kegan
    • 1. Singer’s Attack on Speciesism(シンガーの種差別への攻撃)
      • 1.1.
      • 1.2.
      • 1.3.
      • 1.4.
      • 1.5.
      • 1.6.
      • 1.7.
    • 2. What Do We Believe?(私たちは何を信じているのか)
      • 2.1.
      • 2.2.
      • 2.3.
      • 2.4.
    • 3. Evaluating Personism (人格主義の評価)
      • 3.1.
      • 3.2.
      • 3.3.
      • 3.4.
      • 3.5.
      • 3.6.
      • 3.7.
      • 3.8.
  •  Why Speciesism is Wrong: A response to Kegan(なぜ種差別は悪いのか:ケーガンへの応答) by P. Singer
  • 筆者(私)のコメント
    • シンガーの論文について
    • ケーガンの論文について

 

 本記事は

Kagan, S. (2016). What’s Wrong with Speciesism? (Society of Applied Philosophy Annual Lecture 2015). Journal of Applied Philosophy, 33(1), 1–21. https://doi.org/10.1111/japp.12164

Singer, P. (2016). Why Speciesism is Wrong: A Response to Kagan. Journal of Applied Philosophy, 33(1), 31–35. https://doi.org/10.1111/japp.12165

の二つの論文の要約と、それに対しての私の簡単なコメントを述べる記事である。(著作権周辺がよくわからないので、まずいようでしたら教えてください。)

 記事中で引用する際は原文と私の訳を載せるが、誤訳の可能性があるので、心配な場合は原文を読んでほしい。

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功利主義(2/2)

  • 3 功利主義の適用
    • 3.1 遠くの貧しい人に対する道徳的義務はあるのか
    • 3.2 動物に対して配慮しなければならないか
  • 4 功利主義者になる 
    • 4.1 幸福を単純に比較・足し算することができるのか
    • 4.2 「臓器くじ」や約束を破ってもいいということを正当化するのではないか
      • 4.2.1 「臓器くじ」および外科医の例に対する反論
      • 4.2.2 約束の事例に対する反論
    • 4.3 功利主義はあまりに多くのこと、非常に厳しいことを要求しすぎではないか
  • 5 まとめ
  • 追記
  • 参考文献、読書案内

 

mtboru.hatenablog.com

 前半の記事で、『1 功利主義とは何か』では功利主義について、その基本的な特徴と代表的な批判を取り上げた。『2 功利主義の分類』ではいくつもの分類軸によって功利主義を分類し、様々な形態があることを確認した。また私が望ましいと思うものは「二層・間接・快楽・積極的・先行存在功利主義」であることを示した。

 後半の本記事では、功利主義を用いると私たちがどのように行動すべきなのかを示していく。また、よくある批判に対して答えることで功利主義的な考え方をみていく。そして最後に前半の記事と後半の記事のまとめを行う。

 

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功利主義(1/2)

0 はじめに

 本記事は、規範倫理学の一つの立場である功利主義について入門的なこと、また少し発展的なことを述べる記事である。入門的な内容ならWikipedia他多数の参考になるサイトがある。児玉先生の解説も参考になるだろう。ある程度功利主義を知っている人ならば『道徳的動物日記』のいくつかの記事がとても参考になる。

 功利主義はとても魅力的な倫理理論だと私は思う。しかし批判や誤解がとても多く、あまり支持されていない。この記事を読み終わったとき、皆さんに功利主義が好きになってもらえるよう、せめていくつかの誤解がなくなるよう願っている。

全体の構成について。

 「1 功利主義とは何か」では、功利主義の基礎的なことについて述べ、いくつかの代表的な批判を取り上げる。

 「2 功利主義の分類」では、1で述べたことを軸にいくつかの功利主義の形態を紹介する。多くのサイトでは「行為功利主義」と「規則功利主義」、「快楽功利主義」と「選好充足功利主義」の2つで分けられることが多いが、実は他にも分類法があり、多種多様の功利主義が存在する。

 「3 功利主義の適用」では、いくつかの具体例に関して、功利主義的に考えるとどのようにすべきかを述べる。功利主義は様々なことに関して具体的に述べることができる。しかも、一貫性を保ち、矛盾なくそれができる。これが何よりの魅力であると私は思う。

 「4 功利主義者になる」では、功利主義に対してよくある批判を取り上げる。それら批判に対してどのように答えるかを検討することで、功利主義的な考え方をより深くみる。

 「5 まとめ」では、功利主義についての個人的な見解を含めて、全体のまとめを行う。 

1と2を前半で、残りを後半の記事で取り扱う。

ここで、本記事および後半の記事でよく出てくる「直観」という語について説明する。ここでいう「直観」とは私達が普段持っているような常識的な信念(思っていること)のことである。

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