ボール置き埸

読書メモと勉強したことのまとめ。

動物性愛・ヒト-非ヒト動物間の性的行為に関する規範的議論の文献リスト

  • はじめに
  • 文献一覧
    • 1. Beirne, P. (1997). Rethinking bestiality
    • 2. Singer, P. (2001). Heavy petting.
    • 3. Beirne, P. (2001). Peter Singer's``Heavy Petting''and the Politics of Animal Sexual Assault.
    • 4. Levy, N. (2003). What (if anything) is wrong with bestiality?.
    • 5. Milligan, T. (2011). The wrongness of sex with animals.
    • 6. Rudy, K. (2012). LGBTQ… Z?.
    • 7. Taylor, C. (2017). “Sex without All the Politics”?: Sexual Ethics and Human-Canine Relations.

2023-7-30:記事公開

 

はじめに

※性的な言葉や、強く不快な言葉が出てきます。注意してください。

私が現時点で把握してる(かつアクセス可能かつ既読の)動物性愛(zoophilia)やヒト-非ヒト動物間の性的行為が道徳的に許容できるかについて、規範的な議論をしている文献を以下に紹介する。また各文献の内容についてざっくりと説明する。なお、各議論が成功してるかどうかについての評価はしない。また、動物性愛者に関する記述的な文献(どれくらいいるのか、どのようなセクシュアリティなのかなどの事実的な調査、分析)については膨大にあるので、以下には載せていない。

なお、日本語で読める動物性愛の文献としては以下のものがある。動物性愛についての記述の正確さは不明だが、あまり問題なかったように思う。一方で動物権利活動家らに対する記述はあまりに粗雑で不当に否定的であり、残念に思う。

 

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外部ツール使いまくりの研究方法(論文を探す、読む、書く)

 

研究のやり方がほぼ定着して、今のところうまく機能しているので、改善方法の探索も兼ねて言語化しておく。

なお、私は人文系(特に哲学)と情報科学系(特にNLP)の両方で研究しており、それらを統一的な方法でやりたいと考えている。よって、以下に書く方法が一般化可能だとはあまり思ってない。

 

論文を探す

論文の探し方は、自発的に探す方法と、自動推薦・通知ツールを使う方法と2種類ある。

自発的に探す

人文系・情報系双方で主に用いている検索ツールは以下の通り

情報系の場合はさらにarXiv、人文系(特に哲学系)の場合はPhilpapersも時々用いている。

私は主にGoogle Scholarをメインに用いており、2つの方法がある。

  1. 自分が調べたいキーワードで検索する。大抵は候補が多すぎるので、キーワードを増やしたり、ダブルクオーテーションで検索ワードをかこって完全一致検索をかけることで、候補を減らしている。
  2. 自分が重要だと思う論文の引用文献を、検索ワードと共に探す。

自分がある程度知ってる分野なら2がうまくいく。1は、まだ分野に明るくなく、ざっくり検索したいときに使っている。

Elicit自然言語で検索することができ、かつ候補論文の要旨を要約して表示してくれる。Google Scholarなどでは見つけられなかった論文を提示してくれることがあるのと、自然言語で検索できる(かつ改良された検索フレーズを提示してくれる)ので、時々用いている。これは全く知らない分野の論文を探す時に便利。使用方法については以下のサイトが参考になる。

www.syero-chem.com

 

Incitefulは論文ネットワークを可視化するツールである。複数の論文(5本以上が推奨)を選択すると、それと参照関係にある論文を可視化し、提示してくれる。似たようなサービスにConnected Papersがあるが、Incitefulは無料で使えて、複数の論文からネットワークを可視化することが容易なので、こちらの方が使いやすい。

 

自動推薦・通知ツール

ここでも同じくGoogle Scholarが便利。主に使ってる機能は2つある。

  1. 特定の論文が引用された時に、その引用した論文を通知させる
  2. マイ・ライブラリに登録した論文をもとに、自動で論文を推薦・通知させる

特に1は重要で、私が必須級の論文だと考えてるもの、かつ分野横断的には引用されないような論文を通知設定している。分野横断的に引用されるような論文だと通知が多くなり、また自分に無関係な論文が通知されてしまうため。

2の機能は補助的に用いている。たぶんラベルを駆使すれば推薦精度も上がるのだろうが、そこまでのコストを掛ける気になれないのでラベルは使用していない。

 

論文を読む

読む時に使用しているツールは以下の通り。

Zoteroは概ね無料で使える文献管理ツールで、ブラウザの拡張機能等を通じていろいろできる。Zotero自体のストレージが小さいので(有料で拡張可能)、Google Driveと連携させている。Zoteroの使い方は検索すればいろいろ出てくるので、調べてみると良いと思う。

Zoteroでは、論文をフォルダ分けすることができ、またメモを作れる。私はフォルダを「未読」「読書中」「既読」の三つにしている。論文を分野・トピックごとにフォルダ分けするのは私には全く合わなかったので、MECEな分類になるようにしている。メモ機能は優れてないので、代わりにScrapboxを用いている。そして論文の分野・カテゴリ分けはScrapboxにまかせている。

Scrapboxは少し特殊な構造をしてるノートツールである。完全クラウドかつ無料で用いることができる。Scrapboxの特殊さは以下のような感じだと思う。

  • メモ間の階層構造はなく、メモのカテゴリはすべてタグで管理する
  • 完全クラウドかつ個人利用では無料(この点が似たようなサービスのObsidianと違うところ)
  • 他のメモが2-hopリンクで表示される(そのメモ参照するリンクと、そのメモ参照するリンクの両方を表示する)
  • Scrapbox特有の記法が存在(Obsidianはmarkdown

私がScrapboxを利用してる主な理由は上2つで、似たようなサービスであるObsidianを使ってない理由でもある。また論文を分野・トピックごとにMECEに分類するのは私には不可能だったので、複数のタグで、かつネットワーク的に管理できるのがいい。また完全クラウドで、URLでメモを参照できるため、上記で紹介したZoteroのメモ欄にScrapboxのリンクを貼り付けている(以下の画像はZotero上の画面)。

Zotero上の画面、Scrapboxのリンクがメモ欄に表示されている

代替ツールとしてNotionもいいかもしれないが、Scrapbox+Zoteroがシンプルに使えて、こちらの方が私には適合していた。

 

DeepLは性能のいい機械翻訳ツールである。私はPro版に登録して使っている。専門用語に弱いと言われてるが、Pro版の辞書機能を用いることである程度は解決できる。また私はDeepLを登場初期から用いているため、翻訳のクセがなんとなくわかり、誤訳・抜け訳等がある程度はすぐわかるようになった。DeepLを用いる場合は誤訳等を見つけるために原文を自分で(辞書等用いて)読んで理解できる必要がある。原文で読むのは時間がかかること、またメモを作る際にDeepLの訳文(を少し修正したもの)を貼り付けるのが楽なので、頻繁に用いている。

哲学の論文とNLPの論文では、DeepLで読むときの注意の仕方が全く違う。哲学の論文では細かな表現が重要になるため、誤訳にかなり注意している。そのため、原文と見比べることを頻繁に行っている(その結果余計に時間がかかることもあるが、私の場合はトータルでは訳文を見る方が早く読める)。一方でNLPの論文の場合は、大雑把なメモを作ろうとしているのもあるが、実験目的・方法・結果を適切に把握できる程度であればいいため、そこまで注意してない。また図表もあるため、DeepLを用いずとも理解可能なことが多い。

 

論文を書く

英語でも日本語でも論文を書くが、日本語の場合は英語用に用いているツールを使わないだけである。

私は基本的にLaTeXを用いて論文を書くのだが、ローカルで環境を整えるのが面倒なので、すべてOverleafで完結させている(テンプレートが用意されているときのみCloudlatexを稀に用いる)。Overleafでは日本語対応が少し面倒だが、それを気にしなければ有用な点が多い。LaTeXについて説明するのは大変なのと、私も詳しくないので、知りたい場合は検索するか、以下の本などを読んでください。

 

DeepLは先ほど説明した通り。DeepL Writeは最近でたばかりの言い換えツールで、入力文を自然な言い回しにしてくれる。ただBeta版なのもあり、出力される情報量が少なく、言い換えのコントロールも難しいので、使いにくい。言い換えツールは他にもいろいろあるが、すでにDeepLのPro版に登録して、さらに有料言い換えツールにお金を使いたくないので、諦めている。

Grammalyは文法チェックツールで、自動で英文の文法誤りを訂正してくれる。またPremiumに登録すれば、他にも明瞭さ、繰り返し、受動態の修正などもしてくれる。割引を狙えば50%OFFくらいで登録できるので、そこを狙って登録すると良いと思う。

英語で論文を書くときはこれらのツールを駆使しつつも、自分で最初から英文を書いたりもしている。日本語で書く場合、Overleaf以外は使ってない。

 

他におすすめのツール、方法があれば教えてください。

昆虫食の是非(Fischer, 2019, 5.4)

  • 5.4 昆虫(Insects)
    • 5.4.1 昆虫に意識はあるか?(Are Insects Conscious?)
    • 5.4.2 昆虫食を支持する功利主義的議論(The Utilitarian Argument for Entomophagy)

 

文献情報

Fischer, B. (2019). The ethics of eating animals: Usually bad, sometimes wrong, often permissible. Routledge.

本記事はFischer (2019)の第5章4節の昆虫食に関する議論の紹介である。

5章は功利主義を前提とした場合の議論を検討する章なので、5.4.2では功利主義的議論が検討されている。功利主義的議論は経験的証拠に依存するところが多いため、この議論を検討することは義務論的な議論を検討する上でも重要になりえると思う。

 

 

5.4 昆虫(Insects)

  • 昆虫の意識についてはより複雑
    • もし意識がないなら、それを食べることを強く支持される
      1. 誰でも飼育して調理できる
      2. 加工が簡単で食の安全性に心配しなくていい
      3. 健康的
      4. 環境にやさしい。廃棄されるはずのものを栄養価の高い食品に変える
  • もし昆虫に意識があれば、人間一人あたりに必要な数を考えれば、昆虫の養殖に反対する主張は強力
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快楽主義とは何か?そもそも快楽とは何か?

  • 快楽の本性
    • 感覚的快楽と態度的快楽、内在主義と外在主義
    • 内在主義と外在主義の問題点
  • 快楽主義
    • 快楽主義とは何か
    • 快楽主義の利点と欠点
  • 参考文献

 

本記事は福利の理論としての快楽主義と、快楽それ自体について扱う記事である。私が最近の論文をいろいろ読んで、かなり複雑な状況になっていて大変だなと感じたので、その備忘録と整理のためにこの記事を書いた。

本記事はまず快楽とは何かについて整理する。次に福利の理論としての快楽主義の定式化を行い、その利点と欠点について述べる。

快楽や快楽主義に関する日本語で読める本としては成田(2021, 第三章)が最も詳細なものである。また森村(2019, 第1章)も入門として参考になる。安藤(2006, sec.5.2.2)や、今福(2020)と米村(2017)も参考になる*1

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帰結主義化(SEP4節, Portmore 2022)

  • 4. 帰結主義化への反論(Objections to Consequentializing)
    • 4.1 行為帰結主義には、ユニークに説得的なところはなにもない(There Is Nothing Uniquely Compelling about Act-Consequentialism)
    • 4.2 常識道徳のいくつかの鍵となる特徴は帰結主義化されえない(Some Key Features of Commonsense Morality Cannot Be Consequentialized)
    • 4.3 行為帰結主義的対応理論はギミック的(Act-Consequentialist Counterpart Theories Are Gimmicky)
    • 4.4 行為帰結主義的対応理論は説明的に不十分(Act-Consequentialist Counterpart Theories Are Explanatorily Inadequate)
    • 4.5 「すべての利用可能な代替案を上回る結果を持つ」というのは「実行されるべき」とは等価ではない(“Has an Outcome that Outranks Every Available Alternative” Isn’t Equivalent to “Ought to Be Performed”)
  • 5. Conclusion

Portmore, Douglas W., "Consequentializing", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Fall 2022 Edition), Edward N. Zalta & Uri Nodelman (eds.), URL = https://plato.stanford.edu/archives/fall2022/entries/consequentializing/.
plato.stanford.edu

前半の記事はこちら。
mtboru.hatenablog.com

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変容的経験を選択する権利(Akhlaghi, 2022)

書誌情報
Akhlaghi, F. (2022). Transformative experience and the right to revelatory autonomy. Analysis.
academic.oup.com
CC-BY 4.0でオープンアクセス

1. Introduction

  • 他者が変容的経験*1を受けることを選択するのを妨げようと干渉することは許容可能か、という倫理的問題。
    • 干渉することは、啓示的自律性(revelatory autonomy)と呼ぶべき道徳的権利を人間が有しているので、条件つきでダメだと主張する

2. The Question

  • 変容的経験の選択は、一人称的な合理的選択と行為者性について難しい問題になる
  • では、変容的選択に直面してるのが友人や兄弟、恋愛のパートナーだとしたらどうか。
    • Love:ジャックとジルは幼馴染[恋人?](childhood sweethearts)。ジャックは自分の村で、ジルは他の場所で大学教育を受けることを希望してる。ジルは全額奨学金で大学に行く。ジャックはそれを止めるようと考えてる。
    • Friendship:シャイリーンとシアーヴァッシュは親友である。シアーシュは都会で高給取りの仕事をしている。最近、シアーヴァシュはこの仕事をやめて学校の教師になろうと考えている。シャイリーンは止めようと考えてる。
    • Family:アダムはチャーリーの兄である。アダムは親になるかどうか考えている。チャーリーは止めようと考えてる。
    • これらが許容可能かどうか不明確
  • 本稿で取り組む問題は

(The Question) Under what conditions, if any, is it morally permissible to interfere to try to prevent another from making a transformative choice?
他者が変容的選択をするのを妨げようとする干渉は、あるとすれば、どのような条件下で道徳的に許容可能か?

  • 3つの応答を検討し、どれも失敗すると主張する。
    • そして筆者の、変容的選択に対する独特な権利があるというのを主張する
  • 本稿で「干渉」は、coerce, manipulate, rationally persuade or forceを全部含む。

3. The right to revelatory autonomy

  • 変容的経験には肯定的変容と否定的変容がある。
    • 肯定的認識的変容は知識や理解を増大させ、否定的認識的変容は減少させる
    • 肯定的個人的変容は道徳的または賢慮的により善い人になるよう変える。否定的個人的変容は逆。
  • [最初の見解]認識的または個人的に否定的変容をもたらす場合に干渉は許容可能
    • だがこれは、パラダイムケースの変容的経験は起こった後でないと肯定的か否定的かわからないという問題を見逃してる
    • 三者は変容的選択をする人と少し違う認識的立場に立ちうる
      • [Familyケースで]もしチャーリーが赤ん坊を抱いた経験があるなら、アダムよりも赤ん坊を抱くことが一般にどのようなものかを知ることができる立場にあるかもしれない。
        • しかし、チャーリーが自分の子どもを抱くことがどのようなことなのかということと、アダムがそうすることがどのようなことなのかということが同じだと考える理由はない。同じように変容するわけではない。その理由は、その経験にいたるまでに様々な違いがあるから
        • だからといって、無条件に干渉は許容不可能だということにはならない。連続殺人みたいな変容的経験を望んでる人に対してその選択を妨害するのは明らかに許容可能。
  • 第二の見解:その人の最善の利益になる場合にのみ、変容的選択に干渉するのは許容可能
  • 第三の見解:変容的選択への干渉の許容可能性は、標準的意思決定手続きによって、つまり、不確実な条件下で何をすべきかを期待効用を計算することによって決まる
  • 両者の問題点
    1. 未来の自分の利益がなんであるか、自分の現在の利益が満たされるかは、変容的選択の後でしかわからない
    2. たとえわかっているとしても、干渉の許容可能性にとって、誰の利益が道徳的に問題だろうか。現在なのか未来なのか。一方を特権化するのは恣意的だろう。
  • 以上の問題は深刻。
    1. 干渉の許容性を、選択時点では持ち得ない、知識または信念の理由に依存させることで、[まさに選択時点では持ち得ないために]干渉が許容されると知ることも信じる良い理由を持つこともできないことを含意してる。だがそれはありえない[上の殺人ケースを参照]
    2. 許容可能な行為の最小条件を、許容可能にする条件が満たされてると信じる良い理由があることにしてるために、許容可能な介入がありえないことになってるが、これもありえない
  • これらは、変容的経験に関する、選択前後での認識的障害のために問題がある
  • そこでThe Questionに答える妥当性の条件
    1. 干渉の許容可能性は、レレヴァントな経験の価値を知ることに依存すると考えるべきではない
    2. 現在・未来の人間の間で、誰かに対する何らかのレレヴァントな道徳的義務があるのかをオープンクエスチョンにしておくのは避けるべき
    3. 未来の人の知り得ない利害や、未来の人についてのその選択の帰結を知ることに依存すべきではない
  • よって筆者の回答は

(Revelatory Autonomy) The moral right to autonomously decide to discover how one’s life will go and who one will become by making a transformative choice.
啓示的自律性:変容的選択をすることによって、自分の人生がどのようになるか、自分はどのような人間になるのかを明らかにすることを、自律的に決定する道徳的権利

  • これは単なる自律への権利ではない。
    • 単なる自律への権利の場合、例えば、他者は現在の本人や将来の自分の自律性を尊重するように行動すべきかどうかわからない(相反する可能性がある)という問題が生じる。
  • しかし自由な選択をすることは道徳的に重要なのか?
    • おそらく、一般的に自由な選択をすることが許容されてることに具体的な道徳的価値はない。
    • ではなぜ上記の権利があるのか
  • それは、自律的自己形成(autonomous self-making)の道徳的価値があるから。
    • 選択をすることではなく、自分の核となる選好や価値観がどんな風になるのかを学ぶための自律的選択に価値がある
    • 自分がどんな風になるのかを学ぶために学ぶことを自分で決めることは、自己真正性(self-authorship)を与える
  • この権利は次の対応する義務を生じさせる

(Revelatory Non-Interference) The moral duty not to interfere in the autonomous self-making of others, through their choosing to undergo transformative experiences to discover who they will become.
啓示的非干渉:自分がどうなるかを明らかにする変容的経験を経験することを選ぶことを通じて他者の自律的自己形成をすることに対し、干渉しない道徳的義務

  • よって、啓示的自律性への権利に勝る場合にのみ、他者の変容的選択に干渉することが許容可能
  • この条件つきの回答は、上の妥当性条件を満たしてる。
  • また、啓示的自律の権利は自律的自己形成の価値に基づいてるので、他のものより道徳的価値が高い。
    • そのため、例えば、大学に行くことは初めてチーズバーガーを食べることよりも選好やアイデンティティ、価値観に影響を与える可能性が高いので、干渉の道徳的理由の強さはかなり大きくなければならない
  • 筆者の議論への反論:強制や操作ならダメそうだが、合理的説得はどうか。これは理由や証拠を提供し、合理的意思決定を促進することを目的としている。
  • しかし、以下のことを区別して考えよう。
    • (a)有能な推論者としての能力を尊重するという意味での、自律性の端的な尊重
    • (b)啓示的自律性の尊重、つまり、ある時期に、自己形成や変容的選択を通じて自分が誰になるかを学ぶための特定の決定を行う権利の尊重
    • 合理的説得は行為者が有能な推論者であることを尊重するもの(a)であるが、それは行為者の自律的自己形成を尊重すること(b)を含意しない。
  • (b)を含意しないケースとして、例えば、行為者が認識的自律性を行使できない時期(早期とか)や方法(強引に)で合理的反論を与えることとかがある(Tsai 2014)*2
  • また、ここでは変容的選択の文脈で考えてる。
    • 行為者の自律性を端的に尊重しつつ(a)、啓示的自律性の権利を侵害する方法として、あたかも自分が認識的に特権的立場にあるかのように、見た目上の理由、議論、証拠を与えようとすることがある。
      • だがそれは行使屋の自律的自己形成を軽視(disrespect)してる

4. Conclusion

[省略]

*1:変容的経験については以下の本が基本文献。

*2:Tsai, G. 2014. Rational persuasion as paternalism. Philosophy and Public Affairs 42: 78–112.

2022年に読んだ本

 

去年の記事

mtboru.hatenablog.com

 

 

去年まで読書メーターで一年間分をまとめてブログ出力ができていたのに、今年はなぜか使えなくなっているので、月ごとのまとめはやめて読んでよかった本だけ手動でまとめます。

 

読んだ本:102冊

読んだページ:29013ページ(79.5/day)

月ごとの読書量の変化

全体を通して

今年は明らかに本より論文を読んだ年だったので、去年よりも本の読書量は減った。それでも一月に一冊以上は読んでいたようなので、総合的にはよかったと思う。

本は体系的な知識が得られるが、その分量も多く時間がかかるので、論文を読むよりもハードルが高い。だが分野外のことを知るには論文より本のほうがよい場合が多いので(特に教科書的なものであれば)、これからも積極的に読むようにしたい。

 

読んでよかった本(特によかったのは太字)

  1. Gallagher and Zahavi (2020) The Phenomenological Mind 3rd edition
  2. ソームズ (2021) 意識はどこから生まれてくるのか
  3. オニール (2018) あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠
  4. トロント (2020) ケアするのは誰か?: 新しい民主主義のかたちへ
  5. チャルマーズ (2013) 改訂新版 科学論の展開
  6. ヨーン (2013) 自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか
  7. ブレイク (2019) 最小の結婚: 結婚をめぐる法と道徳書評を書いてます)
  8. Shafer-Landau (2005) Moral Realism: A Defence
  9. ソーバー (2012) 科学と証拠―統計の哲学 入門―
  10. 池上 (1990) 動物裁判
  11. 和泉 (2022) 悪い言語哲学入門書評を書いてます)
  12. クレイン (2010) 心の哲学―心を形づくるもの
  13. 串田、平本、林 (2017) 会話分析入門
  14. 三牧 (2013) ポライトネスの談話分析 ―初対面コミュニケーションの姿としくみ
  15. 幸田 (2021) 魚にも自分がわかる ――動物認知研究の最先端
  16. サイダー (2007) 四次元主義の哲学―持続と時間の存在論
  17. 柏端 (2017) 現代形而上学入門
  18. ノーマン (2001) 道徳の哲学者たち―倫理学入門
  19. Norcross (2020) Morality by Degrees: Reasons Without Demands
  20. 滝浦 (2005) 日本の敬語論
  21. ブラウン、レヴィンソン (2011) ポライトネス 言語使用における、ある普遍現象
  22. Broome (2013) Rationality Through Reasoning
  23. Killmister (2017) Taking the Measure of Autonomy: A Four-Dimensional Theory of Self-Governance
  24. Woodard (2019) Taking Utilitarianism Seriously書評を書いてます)
  25. Wiland (2021) Guided by Voices: Moral Testimony, Advice, and Forging a "We"ch.7の元論文の要約
  26. 成田 (2021) 幸福をめぐる哲学: 「大切に思う」ことへと向かって
  27. スロート (2021) ケアの倫理と共感
  28. van Zyl (2018) Virtue Ethics: A Contemporary Introductionch.9の要約
  29. マッカスキル (2018) 〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ
  30. Cochrane (2019) Should Animals Have Political Rights?ch.6の要約
  31. Driver (2001) Uneasy Virtue
  32. Lackey (2008) Learning from Words: Testimony As a Source of Knowledge
  33. Gunkel (2012) The Machine Question
  34. クラーク (2015) 生まれながらのサイボーグ: 心・テクノロジー・知能の未来
  35. Andrews (2020) How to Study Animal Mindssec.1.2の要約
  36. チャーチランド (2016) 物質と意識(原書第3版):脳科学・人工知能と心の哲学
  37. デネット (2016) 心はどこにあるのか
  38. 中尾 (2015) 人間進化の科学哲学―行動・心・文化―
  39. 鈴木 (2015) ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう: 意識のハード・プロブレムに挑む
  40. 村上 (2021) 脳進化絵巻: 脊椎動物の進化神経学
  41. 村上 (2015) 脳の進化形態学
  42. ソーバー (2009) 進化論の射程―生物学の哲学入門
  43. ヘンリック (2019) 文化がヒトを進化させた―人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉
  44. 倉谷 (2019) 進化する形 進化発生学入門
  45. 網谷 (2020) 種を語ること、定義すること: 種問題の科学哲学
  46. Fischer (2021) Animal Ethics: A Contemporary Introduction
  47. 大坪 (2021) 仲直りの理: 進化心理学から見た機能とメカニズム
  48. Glannon (2022) The Ethics of Consciousness
  49. Shepherd (2018) Consciousness and Moral Status
  50. Andrews (2020) The Animal Mind 2nd edition
  51. デネット (2018) 心の進化を解明する ―バクテリアからバッハへ―
  52. Knight (2011) The Costs and Benefits of Animal Experiments
  53. 千葉 (2022) 現代思想入門
  54. 石原編 (2021) アイヌからみた北海道150年
  55. シンガー (2015) あなたが世界のためにできる たったひとつのこと 〈効果的な利他主義〉のすすめ

読んだ本102冊に対して55冊なので、前回より良かった本を読めた。良い本かどうかの見分けがつくようになってる。

2020年:20冊/90冊(=0.22)

2021年:45冊/136冊(=0.33)

2022年:55冊/102冊(=0.54)