タイトルが形容矛盾ではないかと思う人がいるかも知れない。おそらく、功利主義とは「最大多数の最大幸福になるような行為や規則が道徳的に正しい」というマジョリティのための考えのように思われているからだろう。現代のマイノリティは最大多数の最大幸福のために切り捨てられた人々である、ということがよく言われる。私はこれは誤りであると考える*1。功利主義はマジョリティのための道徳ではなく、マイノリティを含めた全ての有感存在のための道徳であるということを述べたい、これが本記事の目的である。
とはいえ、いきなりその説明に入らず、まず世間一般で理解されているような功利主義理解から改めて説明する。
ここで簡単にマジョリティと多数派の違いについて説明する。ジェンダー学やフェミニズムなどの文脈において、マジョリティは単に多数派を意味する言葉ではない。もちろん多数派という意味で使われることもあるが、基本的には社会的強者、権力関係的に強者であるような人々を指して使われることが多い。例えば、男性と女性の人口はほぼ同数だが、男性はマジョリティで女性はマイノリティである、というように使われる。本記事でもそのような意味で使う。単に多数派を意味するときは、多数派、多数などと明示的にわかるように使う。
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