van Zyl, L. (2018). Virtue ethics: A contemporary introduction. Routledge.
第9章、状況主義的批判のざっとした要約です。*1
状況主義
- 徳は、さまざまな文脈で時間的に信頼可能で安定してその行動を予測できるようなことが期待される
- だが状況主義によればそんな特性は存在しない
- 実験の例
- これらの(より多くの)実験から、性格特性に関する私たちの直観が間違ってる、というのが状況主義からの批判。
- つまり、私たちの行動は性格より状況の方に影響される。
- ではなぜ私たちは間違った直観を持つのか?
- 根本的帰属エラーのバイアス:他人の行動の要因を外部要因ではなく内的特性に帰属しがちだが、自分は逆(自分の場合は状況要因に気づきやすい)
- 別の説明:公平世界仮説
- 状況主義的批判の仕方はいろいろある
- Harman:そんな特性はない(消去主義)
- 特性があると思って責任帰属とかすると寛容でないことになっていろいろ問題がある、など
- Doris:グローバルな特性はないが、ローカルな(局所的)特性はある
- 特定の文脈での特性なら予測できる程度にある
- Harman:そんな特性はない(消去主義)
状況主義への反論
- 反論1:希少性応答(The Rarity Response)
- 反論2:行動主義的応答
- 状況主義的批判は粗雑な行動主義的モデルに基づいている
- 性格を、特定の仕方で行為する傾向性の集合とみなしており、[他の]行動のパターンに還元できない内的傾向的要因(情動や感情の傾向性、目的、理由認識、知恵など)を無視している
- Swantonは、性格特性が期待されるほど行動傾向に関してロバストではないことを認めるが、だからといって内的な要因がないわけではないし、その意味でその性格特性を示しているといえると主張
- 状況主義的批判は粗雑な行動主義的モデルに基づいている
- 反論3:道徳的ジレンマと誘惑(Temptation)
- 状況主義での実験での参加者は道徳的ジレンマに陥っていた。かれらは異なる徳の要求にさらされていた
- ジレンマにない場合には誘惑があり、有徳でない人がそれに耐えられるかどうかは誘惑の種類による
- 有徳でないことを示してはいるが、性格特性に言及した行動の説明を排除できない
- しかし、気分研究の説明がつかない
- Mark Alfano (2013)は、そうした非理由である要因に行動が大きく影響されるというのが、状況主義の核だという
- 反論4:気分影響の最小化
- John Sabini and Maury Silver (2005):気分に左右されるのは認めるが、それによって影響される行動はそんなに重要な事柄ではないので、あまり深刻な問題ではない
- Prinz (2009):気分は人の行動に大きな影響を与えるし、道徳的行動にも影響を与える
- 反論5:人為的徳(factitious virtue)
- Alfanoは、ほとんどの人がグローバルな性格特性をもってないことが徳倫理への問題であることを認め、状況要因の操作が重要だと言うことも認めた上で、その操作の方法の一つとして「徳ラベリング」を考えている
- 例:「正直者だね」と言われると、正直者と一致するような行動をとりやすくなる
- これを支持するためのさまざまな研究を引用している
- 例:募金した人に寛大のレッテルを貼ると、二週間後に別の団体に寄附する可能性が高い(Kraut 1973)
- この意味で、徳は有用なフィクションである
- Alfanoは、ほとんどの人がグローバルな性格特性をもってないことが徳倫理への問題であることを認め、状況要因の操作が重要だと言うことも認めた上で、その操作の方法の一つとして「徳ラベリング」を考えている
- 反論6:徳を獲得するためにより努力する
- MillerおよびBesser-Jonesはそれぞれ、ほとんどの人が伝統的な徳や悪徳を持ってないことを認めているが、それは徳倫理の完全否定の十分な理由にならないと考えている
- 徳倫理が妥当な規範理論かどうかは、それを身につけることが可能かどうかにかかってる
- 誘惑への対処、微妙で無意識的な要因の影響の調整などの方法を学ばなければならない。
- 有望な戦略は以下の通り
状況主義からの別の反論
- 実践的合理性への反論
- 性格の改善の戦略は全て、道徳的行動は合理的思考の結果である(少なくともありうる)という主張に依拠しているが、そうではないという批判を状況主義者は展開している
- これに関する二重プロセス理論による説明がある(意識的プロセスと非意識的・自動的プロセス)
- アリストテレス主義は意思決定での自動的プロセスの役割を認めているが、同時に、そうした自動的プロセスが批判的反省に利用可能であると仮定している
- しかし、自動的プロセスは、その人の反省的に支持された価値観にほとんど影響されないことが示唆されてる
- このことは、MillerやBesser-Jonesの戦略に望みがないことを示している
- すると、一番の望みは、道徳的認知の望ましい側面を自動的に活性化させる可能性の高い状況に身を置くことであると思われる
- 行動の一貫性は、性格の安定性ではなく、環境、特に他者からの期待の安定性の表れである
経験的根拠に基づく徳倫理
- Snowの徳倫理
- Snowは、以下の三つが経験的に支持されてると主張
- グローバルな性格特性が存在する。
- 伝統的に考えられてきた性格特性は、そのような特性の一部である。
- 私たちは徳を身につけることが可能である。
- Snowは、以下の三つが経験的に支持されてると主張
- Snowは認知・感情処理システム(CAPS)としてのパーソナリティ理論を参照する
- CAPSシステムの構成要素は、「認知-感情ユニット」と呼ばれ、信念、欲求、感情、期待、目標、価値観などの変数を含んでいる。これらの変数は、外的または状況的な特徴によって活性化されるだけでなく、内在的な刺激(例えば、思考、推論、想像)によっても活性化されることがある
- Snowは、これらの知見がCAPS特性の存在を支持していると考えている
- 性格特性(美徳と悪徳)はCAPS特性のサブセットである。有徳な傾向性は、CAPS特性同様、「思考、動機、感情反応の特徴的なタイプの比較的安定した構成で、『待機』しており、適切な刺激に反応して起動する準備ができている」
- Snowはさらに、Annas*3やRussellを参照し、徳の獲得と行使は非意識的プロセスに依存する、実践的スキルに似ていると考えているようである
*1:日本語で読める状況主義をめぐる状況に関して、立花(2016)「徳と状況 徳倫理学と状況主義の論争」In 太田編『モラル・サイコロジー』春秋社、が参考になるだろう。また、関連するブログ記事として以下のようなものがある。emerose.hatenablog.comemerose.hatenablog.com
*2:これはDorisのローカルな特性と矛盾しないだろう(Doris 2002 ch.4)。もしSnowのような方向性で徳倫理学を発展させるならば、状況主義者と徳倫理学者の間の相違はかなり小さくなるかもしれない。
*3: