ボール置き埸

読書メモと勉強したことのまとめ。

道徳理論の本質とその評価:Krister Bykvist *Utilitarianism: A Guide for the Perplexed* 第二章の読書メモ

本記事は

Krister Bykvist. *Utilitarianism: A Guide for the Perplexed*

の第二章「道徳理論の本質とその評価」の読書メモである。

 この本は"A Guide for the Perplexed"『迷える人のためのガイド』シリーズの一冊で、他にはスコフィールドの『ベンサム』がある。こちらは邦訳がある。 

ベンサム―功利主義入門

ベンサム―功利主義入門

 
Bentham: A Guide for the Perplexed (Continuum Guides for the Perplexed)

Bentham: A Guide for the Perplexed (Continuum Guides for the Perplexed)

 

  スコフィールドの方は入門的な内容だが、ビクビストの本書はかなり突っ込んだ内容になっており、「初心者向けではない」みたいなことを本文で述べている。

 私はこれを読んでかなり勉強になっているので、功利主義について少し知っている人で、さらに詳しく知りたい(あるいは功利主義を論破したい)という場合にはこの本をおすすめしたい。

 この第二章は規範倫理学における道徳理論はどのような理論なのかを説明をしている。特に「Moral theory and the criterion of rightness 道徳理論と正しさの基準」は日本語文献ではほぼ見られないような説明をしているので、規範倫理学に興味のある方に読んで欲しい。

 

  • Chapter two: The Nature and Assessment of Moral Theories 道徳理論の本質と評価
    • Normative ethics 規範倫理学
    • Moral theory and the criterion of rightness 道徳理論と正しさの基準
    • How to test moral theories 道徳理論をどうテストするか

 

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ヴィーガンはパーム油も避けるべきか?

  • 0 はじめに
  • 1 パーム油について
  • 2 パーム油の生産方法をどうすべきか?
  • 3 「できる限り」の意味する範囲
  • 4 他の植物油の使用
  • 5 まとめ

 

0 はじめに

本記事はパーム油の問題について取り上げ、それについて検討する記事である。パーム油は多くの環境問題を引き起こしており、非常に問題となっている。しかし、一定数のヴィーガンは(私も含め)「パーム油は仕方ないよね」と考えていることだろう。だが、いざ真剣に考えてみると「仕方ないよね」では済まされない部分がある。本記事では「仕方ないよね」と考えるヴィーガン(や非ヴィーガン)に向けて、仕方なくないよ、ということを説明する。

 1節でパーム油の問題とパーム油のメリットについて説明する。2節で「持続可能なパーム油」の生産について説明する。そして3節で、以上の情報をもとに、パーム油を避けるべきか、避けるならどの程度避けるべきかを検討する。4節でパーム油ではない、他の植物油の使用について検討する。5節でまとめる。

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What Is This Thing Called Knowledge? 4th ed. の第13章 moral knowledgeの読書メモ

この記事は

*What Is This Thing Called Knowledge? 4th ed.*

の第13章 moral knowledge(道徳的知識)の読書メモです。

この本の第一部(第1章~第6章)の読書メモは以下で公開しています。

mtboru.hatenablog.com

 

おそらくいろいろと参考になる部分があると思うので、この章の読書メモを公開します。

  • The problem of moral knowledge
  • Scepticism about moral facts
  • Scepticism about moral knowledge
  • The nature of moral knowledge I: classical foundationalism
  • The nature of moral knowledge II: alternative conceptions
  • 感想
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What Is This Thing Called Knowledge? 4th ed. の第一部の読書メモ

現代認識論の入門書で評価が高い(らしい)

D・Pritchard *What is this thing called Knowledge? (4th ed.)*

What is this thing called Knowledge? (What Is This Thing Called?)

What is this thing called Knowledge? (What Is This Thing Called?)

 

の第一部の読書メモです。

 気になっている方もいると思うので(?)、読書メモ(とモチベ上げ)を兼ねて紹介します。私は認識論に関して戸田山『知識の哲学』しか読んでおらず、英語力も貧弱なので、読み間違ったところがあるかもしれません。その点についてはご指摘いただけると助かります。

 本書は5部20章からできていて、各章は短く簡潔にまとまっています。章末には、その章の要約、練習問題、文献案内があり、とても親切な構成になっています。途中途中に関連するコラムがあり、これもまた面白く飽きが来ません。また英語も平易な方だと思います。(私は構文解釈に苦労することがたまにありましたが、全体的にほとんど一読で構文を理解でき、知らない単語を辞書を引いて読み進められました。)

 以下では第一部を章ごとにまとめたものを紹介します。

 

  • 1 Some preliminaries
  • 2 the value of knowledge
  • 3 difining knowledge
    • The Problem of the Criterion
    • Mehodism and Particularism
    • Knowledge as Justified True Belief
    • Gettier Cases
    • Responding to the Gettie Cases
    • Back to the Problem of the Criterion
  • 4 the structure of knowledge
    • Knowledge and justification
    • The Enigmatic Nature of Jsutification
    • Agrippa's Trilemma
    • Infinitism
    • Coherentism
    • Foundationalism
  • 5 rationality
    • Rationality, justification, and knowledge
    • Epistemic rationality and the goal of truth
    • The goal(s) of epistemic rationality
    • The (un)importance of epistemic rationality
    • Rationality and responsibility
    • Epistemic internalism/externalism
  • 6 virtues and faculties
    • Reliabilism
    • A ‘Gettier’ problem for reliabilism
    • Virtue epistemology
    • Virtue epistemology and the externalism/internalism distinction
  • ここまでの感想

 

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私たちは功利計算すべきか(シリーズ:功利主義を掘り下げる2)

  • 0 はじめに
  • 1 直接・間接功利主義
    • 1.1 直接功利主義への批判
    • 1.2 間接功利主義への批判とその応答
      • 1.2.1 密教道徳
      • 1.2.2 非道徳的な意思決定原理による行為
      • 1.2.3 行為の極小化主義と極大化主義
    • 1.3 間接功利主義が含意すること
  • 2 間接功利主義的な実践
    • 2.1 二次的規則に従う
    • 2.2 よくある誤解に対する間接功利主義的回答
  • 3 まとめ
  • 参考文献

 

0 はじめに

 倫理的な問題について議論しているときに功利主義が出てくると、「功利主義的に考えると〜」とまず間違いなく誰かが言い出す。功利主義者も反功利主義者もよく使う言葉だろう。だがそれは本当に功利主義的に考えているのだろうか。実は「功利主義的に考えると〜」と言いながら、当の本人は実は(本来の意味で)功利主義的に考えてないかもしれない。

 功利主義の最も特徴的なところの一つは功利計算だろう。どのような行為や規則がどのようにして最大多数の最大幸福になるのかを計算することである。誰かが「功利主義的に考えると〜」というときはそれを「功利計算をすると〜」という意味で用いているだろう。だが、この二つが必ず同じ意味にはなるわけではない。これを説明するのが本記事の目的である。

 本記事の構成について。1節で直接功利主義と間接功利主義を区別し、どちらが妥当なのかを示す。2節で間接功利主義における道徳実践について考察する。3節でまとめる。

 また、今回の記事の簡単な説明は入門記事の「2.2 直接功利主義、間接功利主義」ですでに説明してあるので、簡単に済ませたいならそちらを読んでいただくといい。

mtboru.hatenablog.com

 

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谷村ノート関連まとめ(気が向いたら随時更新)

自分があとで見てもわかるように、そして他の人にとって議論の整理になるようにまとめていますが、もし転載等をやめてほしいというお願いがあったらコメントやツイッターなどで連絡をください。削除します。

 

追記(2023年4月8日)

久々に確認したら谷村先生自身が自身の補足ノートおよびそれへのリプライ等をまとめているので、以下のリンクを参照されたい。

http://www.phys.cs.is.nagoya-u.ac.jp/~tanimura/philosophy-related-works.html

その上で、本記事は当時のツイッター上でのコメント一覧として読んでいただければ幸いである。

 

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道徳的自然主義者になる方法(2/5)

  • 0 はじめに
  • 1 道徳の奇妙さ
    • 1.1 スミスの「道徳の中心問題」
    • 1.2 マッキーの道徳実在論批判
    • 1.3 道徳的事実のテトラレンマ
    • 1.4 三つの問題の自然主義的回避
  • 2 ムーアの未決論法と自然主義的誤謬
  • 3 まとめ
  • 参考文献

 

前回の記事↓

mtboru.hatenablog.com

 

0 はじめに

 前回の記事では自然主義とはどのようなものなのかの説明を行った。本記事ではメタ倫理学において自然主義を取る動機について説明する。

 1節で、道徳についての三つの問題、スミスの「道徳の中心問題」とマッキーの実在論批判、道徳的事実のテトラレンマをみていく。これによって自然主義を取る動機が説明される。2節で、ムーアの自然主義的誤謬を説明し、ムーアからの批判をどのように回避するかを説明する。3節でまとめる。

 一つ注意点がある。ここでは実在論を取るならばどのように議論をすすめるべきかを検討する。ただし、この実在論自然主義ー非自然主義に無関係な立場として考える。

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